バカ往復(閉め出し)

 『あいこ』は僕の醜態を心行くまでからかって、道路の上なのに転げ回ってバカ笑いしてました。ひっくり返って喜んでいるバカから、僕のパンツを引ったくって急いで履きました。

 僕は悔しくて情けなくて仕方ありませんでした。でも、このバカ笑いしてる女が、『今朝までショボくれていたんだな』と思ったら、これでも『まっ、いっか』と思いました。

 僕の悔しさも、白いワンピースから伸びた足がバタバタする度、チラチラ見えるヒモパンが和らげてくれました。さっきは片っぽが解けていましたが、いつの間にか結ばれていました。

 「汚れますよ、ワンピース。」

 僕が言うコトなんか全然聞かないで、『あいこ』は『ひ~、ひ~』息を荒げて笑ってました。


 「…あれ? 何で、裸足なんですか?」

 僕は、笑い過ぎて痛くなったお腹を押さえて苦しんでる『あいこ』が、また、いつの間にか裸足になってる事に、ようやく気が付きました。

 「あ~、面白れ~。『ともスケ』最高~~~っ!」

 「足、何で、履いてないんですか?」

 「あはっ、あはっ、あ~~~、さっき脱いだ…。いひひひ…」

 僕は『犯行現場に証拠を残してきたのか!?』と思って『ドキッ!』としました。でも、ホントは、もっと前でした。

 「あっ!? さっきの『土下座』の時ですか!?」

 「うくくく…、そう。『ともスケ』のおかげで、あっはははっ、あはっ、あはっ、あたしもダッシュさせられた時。」

 僕は内心『ああ…』と納得して力が抜けました。『犯行現場』のまたその先に、『あいこ』の、確かサンダルが転がっているはずでした。

 「………、取って来ます。」

 あんなバカな事をしなかったら、別にそのままでも帰りにでも拾えば平気でしたが、マジで『変態覗き犯』の疑いをかけられてたら、『犯人に関わる証拠』扱いにされると面倒臭いので、急いで取りに戻る事にしました。

 バカ笑いが全然収まらないコイツを、このままにしておくのもちょっと心配でしたが、僕は『誰か追って来てないか?』、『待ち伏せされてないか?』と、ビクビク警戒しながら、今来た逃走路を引き返しました。

 通り過ぎる自動車のライトから過敏に逃げ隠れして、『犯行現場』の脇に差し掛かると、無意味に勃起しました。僕は忍び足でサササッと駆け抜け、さっきの場所に戻ると、『あいこ』のサンダルが僕を待っていました。

 街灯のスポットライトからちょっと外れて、可愛らしく『チョコン』と並んでいました。拾い上げて見ると、鼻緒のところにヒマワリが控え目に咲いていて、全然持ち主のキャラに無い可愛らしい物でした。

 持ち上げたら、ほっぽっといて『悪かったな…』と、何となく思いました。『大事な立ち会い人』の代わりみたいな感じがしたので、僕は大事に抱えて、また忍び足で戻りました。

 街灯の逆光の中に白い少女の姿が見えました。膝を立てて両手を後ろについた横M字で、道路の上にまだ直に座ってました。

 「…戻って来たんだ~?」

 「来ますヨ。」

 「ふ~~~ん。」

 僕は『あいこ』にサンダルを『はいっ』と手渡そうとしましたが、『あいこ』は左足を僕に突き出しました。僕は黙ってサンダルを履かせました。

 「『ともスケ』~?」

 「はい。」

 「お前、か・な・ら・ず・あたしのパンチラ見るよな~?」

 「いっ? えっ? あ、はい…、見てます。」

 「何が、そんなに面白いの?」

 そう聞かれても、僕自信、何が面白いのか解らなかったので、バッチリ拝めてるスカートの中の、『あいこ』のヒモパンをジーーーッと見ながら悩みました。

 「何、勝手に見てんだヨ!?」

 「う~~~~~ん…、」

 「ば~か。くっだらないコトで悩むな。」

 右足も突き出してサンダルを履かせてもらった『あいこ』は、立ち上がる勢いで僕の額を『グー』で『ゴンッ!』と殴りました。額を押さえて僕がうずくまると、僕の右手を強引に引っぺがしました。

 『あいこ』にグイグイ手を引っ張られて歩き出したら、今度はいきなり、建物の間に『あいこ』に引きずり込まれました。ちょっと『モテ男』気分で浮かれた僕は、『あいこ』の手で口を塞がれました。

 『あいこ』は僕のお腹、膝と『ポ、ポンっ!』と叩いてしゃがませると、『声を出すな…』とドスの効いた声で囁きました。勘違いしていた僕は、ワケが解らずビビりました。

 室外機の陰で、しばらく何もしないでそのまましゃがんでいたら、『しっ…』と『あいこ』が言って、『あいこ』が僕の肩を押して、もっと小さく固めました。

 自転車をこぐ音が聞こえてきたと思ったら、頭に『特殊』が着く『公務員』の人がやって来ました。僕がその姿をチラッと見たら、『あいこ』の手が僕の目を隠しました。

 『あいこ』の手の平の下から、僕のすぐ目の前を物凄く明るく照らすライトの光が見えました。胃袋を『ギューン』と掴まれたような痛みが走りました。

 すぐ側で、僕とが大好きな『柳沢慎吾の「タバコ芸」』を、本職の人がホントにやってました。『通報されてた~!?』と思ったら、僕はビビり過ぎて気持ち悪くなってきました。

 物凄く長~~~い時間が流れました。吐きそうになってる僕を、『あいこ』はガッチリ壁側に固めて隠していました。やがて、カチャカチャと自転車が走り去る音がしました。

 「まだ、動くなよ…」

 物凄く手慣れた感じで、落ち着き払った『あいこ』が僕に言いました。僕は言われた通りにジッとしてました。しばらくすると、今度はゆっくり歩いて『特殊』な人が、またやって来ました。

 また目の前を明るい光が照らしました。その時、止まっていた室外機が『ブォン』と動き出しました。僕は気絶しそうなくらい『ドキッ!』としました。

 あまりの緊張で放心状態になっていた僕は、頭を『ぱしっ』と『あいこ』に叩かれて我に返りました。ひとまずピンチは脱したようでした。

 「ビビり過ぎだぞ、お前。」

 「ビビりますよ…、普通。」

 「あたしを、『犯そう』としたクセに。」

 僕は、さっき真剣に『恋愛行為』をしたと思ってたのに、『あいこ』に乱暴な言われ方をしたんで、ちょっとガッカリでした。そんな『犯罪行為』をしたつもりは全然ありませんでした。

 「関係ないですよ…。」

 「ば~か、誉めてんだよ!」

 「…意味が、解んないんですけど…。」

 「どのくらい、ビビった?」

 『あいこ』は、僕のチンポをハーフパンツの上から撫でさすって、『ビビり具合』をチェックしました。ビックリするくらいチンポが小さくなっていて、行方不明になっていました。

 「情けね~な、お前。」

 「何で、分かったんですか? お巡〇さんが来るのが…」

 「あ~ん? ああ…、『臭い』だよ。」

 『特殊』な人を『臭い』で察知するなんて、『普段、何をやらかしたら?』、『そんな特殊能力が身につくのか?』と考えました。僕は冗談抜きで、『コイツ、ホントに「猛」なんじゃないか?』と思いました。

 イロイロ考えましたが、考えて分かる方がおかしいので、考えるのを止めました。物凄く『危険な臭い』もしてきたので、なおさらでした。

 「じゃ…、この辺で…。あとは、ひとりで帰りますから…、」

 「はああっ!? てめぇ~、ヤル事、ヤッたから『サヨナラ』かぁ~!?」

 「いっ、いえ…、あんまり帰るのが遅くなったら、お父さんが心配するじゃないですか…」

 「しねぇ~よ! するワケね~~~し!」

 「『俺の大事な娘だ』って、言ってましたよ。」

 「……………、言うな、バカ! 恥ずかしいよ。」

 『あいこ』は僕とくだらない会話をしながら、巡回してるであろう『特殊』な人を避けつつ、結局、僕を送って、家のすぐ側まで来てしまいました。

 『あいこ』が僕の手を握ったり、指に触ったりしてくるので、『また、泊まりたいのかな?』と思いました。どうしようか迷いながら玄関に回ると、なぜか真っ暗でした。

 『……………、何で??』

 チャイムを鳴らしても、何の反応もありませんでした。僕を送り出しておきながら、あのバカ母娘は僕の帰りを待っていませんでした。

 「悲しいねぇ~? 『ともスケ』く~ん。」

 物凄くムカつく笑顔の『白い悪魔』が、ニタニタ笑いながら、また僕をバカにしました。