熔解

 『青』。他の色を押し潰すような、『青』。

 『黒』。アスファルトをくり抜き、町並みを切り取る、『黒』。

 『白』。太陽に熔かされ、輝き、塗り重なる、『白』。



 陽炎の向こう側にある町並みは、まるで僕が現実逃避すると現れる、あの『白い空間』のように、何の現実味もなく白く煌めきながら揺れていました。

 ただ違うのはザックリと切り取られたような、ズッポリと抜け落ちたような『影』が、所々に待ち構えているのと、やけに圧力を感じるのに軽やかな『空』がありました。

 それが蒸発しそうな僕の頭に、ボンヤリと実感を湧き起こしていました。

 『あいこ』のところへ『納得いかないままの謝罪』に行くはずが、全く予想外の展開になってしまって、僕の頭は完全に思考停止に追い込まれました。




 「おぁさーん! ともゆき、ホントに壊れたーっ!!」

 「えっ? えっ? 何、ホントって? はっ! ともゆきっ! とー、もー、ゆー、きーーーっ!!」



 中2の頭じゃ、理解も、判断も、予測も、当然対処も、不可能な領域に入ってしまったので、が僕をコーディネートしてくれました。無難に無地の白いポロシャツにデニムのハーフパンツにしました。

 おぼろげな形の道行く人たちが、黒い標識のよう固まったり、白く流れる矢印になったりしながら、『あいこ』の家に続く道のりを僕に教えていました。



 「ともゆき…、しっかりしなよ。お母さん、またお店に行っちゃったよ。大丈夫だよ…」

 水の冷たさも感じなくなった僕に、が今度はおを掛けていました。全身の毛細血管に血流が分散して行きました。

 気持ち良さを感じると同時に、頭とチンポの血量が下がったのか、フニャフニャと活力が無くなりました。



 ぼーっとする頭に浮かぶのは、とにかく厳しい『「あいこ」のお父さん』のイメージでした。

 ホントはもっと気さくで優しくて、いかにも『職人さん』って感じの人です。でも、僕の今置かれているシチュエーションが、ネガティブなイメージしか思い起こさせませんでした。

 理由は解らないけど、猛烈に若い職人さんを殴っていた、最悪の光景を思い出してしまいました。『あれは何だったのか?』と想像すると、僕は恐怖心ばかりが増幅する『洞穴』に、どんどん、どんどん迷い込んでいきました。



 「しっかりしなって…。別に怒られるって決まったワケじゃ、ないんだからぁ~。」

 はそう言いながら、裸の僕を自分の部屋に運び込み、ベッドに横たわらせました。『元気、出せ…』と励ましながらキスをして、クタクタになってたチンポを優しく握って、活力を甦らせてくれました。

 「『潮吹き』手伝ってくれて、ありがと。ほら、溜まってたんでしょ? 思いっ切り出していいよ。」

 は僕のチンポをぱっくり口に含むと、ジュボジュボ激しく吸い上げながらフェラしてくれました。痺れるような気持ち良さに、ジワッと先走りが漏れました。

 肛門の奥からジンワリ射精感が滲み出すと、そこからチンポの先まで、全部いっぺんに熔けて、噴き出して、無くなってしまいそうでした。

 すすり上げてるの口が、『ギュギュギューっ!』、『ずぞずびーッ!』と、激しく音を立てながらチンポを震わせました。その振動が痛みを感じさせるので、チンポが勃起している実感が湧きました。

 「黙ってばっかりいるんじゃないわよ~っ! 『気持ち良い~っ』とか、『感じるぅ~っ』とか、せめて『ああ~っ』とか、言いなさいヨっ!!」

 僕はの声を遠くに感じながら、ボーッと天井を眺めてました。視線は天井も通り抜けて、雲ひとつ無い空を感じてしました。その無意識の視界を遮って、のオッパイが顔に乗っかってきました。

 「ほらっ、吸って~、舐めて~、咥えて~、………、揉めって! ヤル気出せって!!」



 足の裏が硬いアスファルトを踏んで、その上に僕は乗っかっているはずでした。でも、その感覚は不確かで頼りなく感じられました。踏み付けたそばから、ズルズル、ドロドロと足元が熔けて、ズブズブぬかるんでしまいそうでした。

 熱い、すべてを熔かす熱い太陽が、僕と、僕の目に入る物すべてを熔かしています。太陽が僕の意識を困惑させていました。

 僕の身体は町並みといっしょに熔けて流れて、ポッカリ開いた黒い穴に溜まり、冷え固まると立ち上がり、また歩き出しては熔けました。



 のオッパイも、握った僕の手のひらから流れて落ちて、僕の顔にボトボトかかります。熱い息がひとつになって、僕たちの身体も熔け合いました。

 手探りで確かめ合う身体は、冷え固まった脂のようでした。手が触れると、体温でヌルヌル熔けてトロトロと流れました。流れて、溜まって、固まって、僕の形になり、僕の身体を熔かしては、またの身体を造りました。

 「いいよ…、その調子。あたしと『近親相姦』ヤッてんだから…。あっ、ちっちゃいコトで、いちいち…、はあっ、ビビッてんじゃないわ…よ。あうう~~~ん。」

 は僕の身体をジュルジュルと潜り込ませ、胎内でドロドロに熔かしました。熱い息が吠えるように気道を通り抜け、ダラダラと熔け落ちようとする身体を冷却しました。

 僕は気絶しそうな感じの中でにしがみつき、何度も挿入を繰り返しました。感覚が感情を呼び覚ます度に、困惑して身体が熔けました。

 「ちゃん…、ちゃ~ん。」

 「何、泣いてんのよ~!? 痛いの? 気持ち良~の? 怖いの~? 何なの~~~っ?」

 「ちゃん、ちゃん…」

 「もう、面倒臭い…。何? ハッキリ言いな!!」



 「…マンコ、舐めさせて。」



 「…あんた、殺〇よっ!」



 現実感の無い町並みには、所々、真っ黒な影がありました。光を反射しない『黒』は、どこまでも落ち込む『穴』でした。

 『穴』が灼熱の中の休憩所でした。熔けて、沸騰して、蒸発しそうな、この太陽の下で、僕の意識をつなぎ止めてくれました。



 「ほらぁ~っ、ともゆき~っ! ベロ止まってるって~。止めるなっ! バカッ!!」



 でも僕の意識の中にまで、その『穴』が入り込み、大きな黒い塊となって、僕の意識を飲み込もうとしてました。まるで全てを吸い込むように引き付ける天体・『ブラックホール』でした。

 ブラックホールに引き寄せられた物質は、凄まじい重力で時間ごと、スパゲティーみたいに引き延ばされるそうで、その空間の中に閉じ込められた者は、振り返れば、振り返っている自分を見る事が出来るとか。

 そんな超空間にいるような、進んでいるのか、止まっているのか、戻っているのか、ハッキリと意識の置き場所の無い中で、僕は振り返って、振り返って、振り返って、自分自身を確認しました。

 僕の身体も『エロ銀河』の真ん中にあるブラックホールに吸い寄せられ、閉じ込められていました。振り返って見ても、見えるのは振り返っている僕だけでした。



 「ともゆきっ、こっち見て!」

 「うう…、うううぅ~っ!!」

 「コラーーーッ! アタシと、こんな気持ち良いコト、ヤッてんのよっ! ちゃんと、しっかり気持ち良くなれっ!!」

 が締め付けるマンコの刺激は、チンポと頭で別々に混乱していた僕を吸い込んで、出口に向かわせて背中を押しました。引き伸ばされるような快感に、僕の感覚は急激に加速し、一気に射精感が弾けました。

 「あ…、あっ、ああ~、出る、出る、出るぅ~~~ッ!!」

 閉じ込められていた僕の意識は、射精の快感でひとつにまとまり、解放されドピュドピュと前進しました。やっぱりマンコは偉大です。

 飛び散った僕の精液は、と僕のお腹でサンドイッチされました。が身体を起こすと、小麦色の肌に白くプリントされた、『洞穴』の出口が現れました。

 僕が震えながら、その出口にある、インターフォンのボタンを押そうとした時、向こうの方から先につなげてきました。その音に『ビクッ!』と僕は驚いて、身体の震えが止まりました。



 『開いてるよ…、上がっておいで。』



 その声を聞いたら、不思議と言うか、条件反射と言うか、僕はすんなり玄関のドアを開ける事が出来て、『いつも通り』に『あいこ』の家に入って行きました。

 随分と久しぶりなのに、僕は何の迷いもなく、僕を待ってる人が居る所へ、すーっと家の中を進んで行きました。

 ちょっと薄暗い部屋にポツンと、ちっちゃい『ヨロシクさん』が、さらに小さくなって、介護用ベッドに座ってました。



 「やあ…、ともくん…。久しぶりぶりだね~。」



 久しぶりに会う、『ヨロシクさん』の・『あいこ』のお父さんでした。